住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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【目次】
賃貸住宅経営を検討している方や建て替えを検討中のオーナーさまの中には、環境にやさしいと言われる「ZEH」に関心を持たれている方も多いと思います。ここではZEHの現状と背景、定義について詳しく解説します。
ZEHとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略で、年間の一次エネルギー消費量を正味(ネット)ゼロ以下にすることを目標とする住宅です。2008年ごろから米国で「新しい省エネの形」として注目され、日本では2014年4月の第4次エネルギー基本計画においてZEHの推進が始まりました。
ZEH普及の背景にあるのが、地球規模の課題である気候変動問題への対応です。2015年のパリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より充分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という世界共通の長期目標が掲げられると同時に、脱炭素化を目指すことを合意。それを受け、日本政府は2020年10月に、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言、2021年4月には、2030年度に二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを2013年度から46%削減すると、より具体的な方針を掲げました。
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量ゼロ)の実現には、各家庭の省エネも重要になります。そこで注目されているのが、住宅をゼロエネルギー化するZEHなのです。
第6次エネルギー基本計画(2021年10月)において「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」などの目標が示されていること、そして国が補助金事業を通して普及支援していることなどから、今後ますます普及が拡大すると予想されます。これまでは戸建住宅が先行してきましたが、昨今は集合住宅でもZEH化の流れが加速しつつあります。
国を挙げて推し進められているZEH。具体的にはどのような特徴を持つ住宅なのでしょう。ここでは、その定義とポイントを押さえておきます。
ZEHとは、外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入し、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現。その上で、再生可能エネルギー等を導入することで、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅のことです。
ここから、ZEHは「高断熱」「省エネ」「創エネ」の3つのポイントをクリアする必要があることがわかります。
①「高断熱な外皮」
屋根や外壁、窓、床、基礎など、建物の外皮における断熱性能を高めることで、エネルギーを極力必要とせず、夏は涼しく、冬は暖かい住宅を実現する。
②「省エネ設備機器」
エアコンや照明、換気扇、給湯機などの住宅設備機器を省エネ性能の高いものにすることで、エネルギーを効率よく使う住宅を実現する。
③「創エネ」
太陽光発電システムなどの創エネ設備を導入することで、エネルギーを自ら創り、自家消費や非常時に備える住まいを実現する。先にZEHとは、年間の一次エネルギー消費量を正味ゼロ以下にする住宅と紹介しました。つまり、「省エネ①+②」によってエネルギー消費量を極力減らし、「創エネ③」によって生み出されたエネルギー量が消費量を上回れば、使用したエネルギー量を実質ゼロ以下にすることが可能になります。一次エネルギーとは、自然界にある石油や天然ガスなど直接エネルギーになるもののことで、家庭であれば石油ストーブなどが該当します。
ZEHは戸建住宅だけでなく、分譲マンションや賃貸住宅などの集合住宅でも増えつつあります。2018年に集合住宅も補助金制度の支援対象となり、「ZEH-M(ゼッチ・マンション)」という呼び名でZEH評価の区分と内容が定義されています。
集合住宅は戸数に対して屋根の面積が限られるため、消費エネルギーをゼロにするのは難しいという一面があります。そのためZEHマンションは省エネ率や階数などによって独自の基準が設けられているのが特徴で、以下の4種類に区分されています。
・ZEH-M … 再エネを加えて100%以上の省エネ率を実現する
・Nearly ZEH-M … 再エネを加えて75%以上の省エネ率を実現する
・ZEH-M Ready … 再エネを加えて50%以上の省エネ率を実現する
・ZEH-M Oriented … 再エネを加えて20%以上の省エネ率を実現する
また、マンションの階数によって目指すべき水準が示されています。さらに、ZEHマンションの場合は住棟単位のZEH-Mとしての評価に加え、一部の住戸を「ZEH」として評価することも可能になっています。
・1〜3階建 … ZEH-MまたはNearly ZEH-M
・4〜5階建 … ZEH-M Ready
・6階建以上 … ZEH-M Oriented
現在、住宅の省エネ化はもはや避けられないテーマであり、賃貸住宅経営においてもひとつの課題となっています。ここでは、オーナーさまがZEH-Mを建てるとどのようなメリットがあるのかを紹介します。
① 光熱費の負担を抑えられる
ZEH-M対応の賃貸住宅では、住宅の省エネ化や創エネの活用によって光熱費の負担を抑えられるというメリットがあります。実際に「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2022」のアンケートでは、ZEH-Mに移り住んだ人の半数以上(夏は59.5%、冬は49.9%)の方は電気代が安くなったと回答しています。
② 快適な住環境で健康にも貢献
住宅の高断熱化によって快適な室温や湿度を保ちやすくなり、夏は涼しく、冬は暖かい快適な住空間が実現し、カビや結露の発生も少なくなります。また、居室と廊下などの温度差の少ない空間は、ヒートショックのリスクを減らす効果も期待できます。
③ 災害時の暮らし継続を可能にする
ZEH-Mは災害に強い住宅としても注目されています。太陽光発電などの創エネ設備や蓄電池が設置されていれば、台風や豪雨などの災害によって電力の供給が途絶えた場合でも自宅で一定期間の生活を継続できる可能性が高くなります。その場合、各住戸に発電力を家庭で使用できる交流電力に変換するパワーコンディショナーが設置されている必要がありますが、災害時のライフラインの確保は災害時の生活のみならず健康維持にも貢献すると考えられます。
また興味深いのは、前述のアンケートで約半数の人が「ZEH-Mに移り住んだ後エネルギーに関心を持つようになった」と回答している点です。入居者が快適な暮らしに満足するだけでなく、暮らすことで省エネに貢献できるというのも広い意味でメリットと捉えられます。
① 競争力を維持する賃貸住宅経営
省エネ性や快適性といった付加価値によって他の賃貸住宅との差別化を図ることができるでしょう。また、「環境にも家計にもやさしいZEH賃貸」として資産価値を高めつつ、競争力の維持も期待できます。
② 家賃を高めに設定できる
高断熱・省エネ・創エネの相乗効果で、入居者還元型であれば、月々支払う光熱費を通常の住宅よりも安く抑えられるため、その分を家賃に転嫁することが可能です。また、近い将来「目安光熱費表示制度」も導入される予定のため、より具体的に光熱費の節約をアピールすることも可能。入居の後押しにも寄与すると言えます。
③ 売電収入を収益に反映できる
余剰電力があれば売電して収益力を高めることも可能です。また、建物の共益費などに充当して入居者に還元することをアピールすることもできるかもしれません。ただし、売電単価が低下傾向にあることや、エネルギー自立の観点から自家消費率の拡大が求められる傾向があることは心得ておきたいポイントです。
発電した電力を入居者が使用し、売電収入も入居者が享受する「入居者還元型」、ほとんどを売電してオーナーさまが享受する「オーナー還元型」、そして、創り出した電力は入居者が使用し、余剰電力はオーナーさまが売電する「電力シェアスタイル」のいずれの方法を採用するかは、長期的視点で計画を立てることが必要になります。
④ ZEH-M対象の補助金を活用できる
高断熱性能の建材や太陽光発電システムが必要になるため建築費用は高くなりますが、国を挙げて推進しているZEH-Mは、補助金による建築費用の負担軽減が期待できます。ただし、ZEH-Mの補助金は申請後に審査があり、申請すれば必ず受けられるとは限りませんので注意が必要です。
⑤ 地球温暖化対策に貢献できる
賃貸住宅経営を通して地球温暖化対策に貢献できます。持続可能な社会を実現するために住宅の果たす役割も大きくなっており、建築計画から維持管理に至るまで経営全体に意識を巡らせながら、やり甲斐を感じることができるでしょう。
ZEH-M対応賃貸住宅を検討する上での注意点としては、次のようなことがあります。
ZEH-M対応賃貸住宅は、さまざまな省エネ素材や設備、創エネ設備の導入が必要となることから、通常のマンションと比べて建築コストが高くなります。そのため、ZEH-Mの工事費用の一部を補うために、国による補助金制度が用意されています。あらかじめ活用できる補助金制度の内容を確認しておきましょう。
ZEH-Mの認定基準を満たすために、建物の外観や屋根のデザイン、間取りなど設計上の制限を受ける可能性があります。ZEH-Mとしての基準を満たしつつ付加価値を高める建築方法を、ハウスメーカーや施工会社としっかり検討しましょう。
太陽光発電による発電量は、天候や季節に左右されます。多雪地域や寒冷地、低日射地域など地域の気象条件に合った創エネシステムを導入することが必要です。また、周辺環境など立地条件の関係で想定よりもZEHの評価が低くなってしまうことも考えられます。
政府は2030年までに集合住宅を含む新築住宅の多くでZEHの実現を目指しています。補助金制度は、ZEHの普及を推進するために設けられた制度です。年度によって補助金の内容や申請期間が変わりますので年度ごとに確認する必要があります。
また、ZEH-Mの補助金を受けるためには以下のポイントに注意することが必要です。
・「ZEHデベロッパー」に建築を依頼する
ZEH-M対応賃貸住宅を建築する上で大切なのは、補助金を受けるための必須条件になっている「ZEHデベロッパー」として登録された企業(ハウスメーカーなど建設会社)に依頼することです。「ZEHデベロッパー」は環境共創イニシアチブ(SII)の公式ホームページ上で検索することができます。
・補助金の申請期間を確認して計画を立てる
補助金は基本的に公募制で行われ、事業により申請期間と審査期間が異なります。また、先着順のため補助金の予算に到達した場合などはスケジュールが変更になる可能性もあります。
ZEH-M対応賃貸住宅のプランを検討している場合は、ZEH対応のハウスメーカーなど実績のあるZEHデベロッパーを選択し、公募期間に合わせたプランニングや申請など、早めに手続きを進めるよう心がけることが重要になるでしょう。
【まとめ】
ZEH-Mは温室効果ガス削減対策の一環として考案され、高い省エネ性と創エネにより、年間の消費エネルギー量を実質ゼロにすることを目指す集合住宅で、ZEH対応の集合住宅も増加傾向にあります。今後は、ZEH対応の住まいの快適性を実感した入居者が増えることや環境意識に関心を持つ若い世代が賃貸住宅のボリュームゾーンとなっていくことから、ZEH対応賃貸住宅が実質的にスタンダートになることも予想されます。
戸建住宅だけでなく、賃貸住宅も地球環境にも人にもやさしい、ZEH-M対応賃貸住宅が、これからの賃貸住宅の未来を変えていくきっかけになるでしょう。