住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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【目次】
まずは、アパート経営における法人化とは何か、その概要をおさえておきます。
アパート経営の法人化とは、新たに会社を設立し、法人名義でアパートの経営を行うことです。個人事業から切り替えるケース、初めから法人として経営を行うケースがあります。
「個人事業主」と「法人」の違いは、法人化することでアパートの所有者が個人から法人へ移転することです。それにより、以下のような変化が生まれます。
・家賃は個人収入ではなく、法人収入になる
・個人の収入は法人からの役員報酬、または給与になる
・家族を役員とすることで、家賃収入を分配することができる
・入居者との契約、融資の申し込みなどは法人が窓口となる
税制上、贈与税がかからない金額は年間110万円と決まっていますが、アパート経営を法人化することで、贈与税がかからず家賃収入を家族へ分配することができるため、相続対策にもなります。
一般的に、以下の場合は法人化したほうが良いとされています。
① アパート収入が1,000万円を超えている
② 個人の合計所得が1,000万円を超えている
例えば、サラリーマンで副業としてアパートを経営している場合は②にあたります。これは、個人よりも法人の方が所得にかかる税率が低くなり、節税が可能になるからと言われています。
なぜなら、個人の所得税は、所得に応じて税率が上がる「累進課税制度」が採用されています。
例えば、個人の所得が「695万円超899.9万円」の場合、所得税率は23%。住民税(10%)も生じるため、所得に対して合計33%の税金がかかります。同様に、「900万円超1,799.9万円」の場合では、所得税率は33%で住民税と合わせて合計税率は43%になります。
一方、資本金1億円以下の法人に対する実効税率(企業が所得に対して実質的に負担する税率)は、東京都の場合約34%。つまり、個人の所得が「695万円超899.9万円」の場合は、個人事業主の方が有利となり、「900万円超1,799.9万円」では10%ほど法人の方が税率が低くなることになります。
法人化には会社設立の費用や運営費用などがかかることから、法人化のタイミングとして「個人所得が概ね1,000万円超」が目安となっているのです。
アパート経営を法人化することで、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。大きく「節税効果」と「相続・事業継承のスムーズさ」に分けて見ていきます。
前述のとおり、所得が一定以上ある場合は、個人より法人のほうが、所得に対して課せられる実効税率の方が低くなります。このため、税金を納めた後に残るお金(資産)を、単純に個人事業主と法人とで比較すると、事業規模が大きくなればなるほど、後者のほうが多くなります。
ただし、個人の手元に残ったお金は個人で自由に使えますが、法人の資産は、たとえ経営者といえども、私的用途で自由に使うことはできません。
法人のほうが実効税率が低いというのは確かにメリットではありますが、アパート経営を法人化する場合は、そのメリットをとるよりも、次に述べる「所得の移転」による節税メリットをとるほうが効果的であることも多いので、専門家ともよく相談して、賢く節税できる方法を選びましょう。
法人の得た収入の一部を、自分や家族への役員報酬や給与という形で支払うことで、トータルで納める税額を抑えることができます。法人が個人に支払った額は、その全部または一部を損金として計上できますので、法人税の対象となる所得が減り、結果的に、税金を低く抑える(場合によってはゼロにする)ことも期待できます。
一方、役員報酬や給与を得た個人に対しては、当然、所得税や住民税が課せられることになります。しかし、もともと収入が少ない個人であれば、一定額の所得控除が受けられるうえ、税率も法人より低く抑えることができます。また、ある程度の収入があったとしても、個人が自由に使えるお金が増えることになりますから、効果はあると言えるでしょう。
法人化による節税メリットで見逃せないのが、法人のほうが個人よりも、必要経費として認められる範囲が広いという点です。個人事業主の場合、費用計上できるのはアパート経営に直接必要な出費に限られてしまいますが、法人の場合は、事業拡大に向けた視察費用、役員の生命保険料、退職金の支給なども経費にすることができます。
また、特に初年度などで、経費がかさんで帳簿上赤字になってしまった場合、個人だと欠損金(赤字)が繰り越せるのは3年までですが、法人の場合は10年間にわたって欠損金を繰り越すことができるため、場合によっては大きな節税が見込めます。
賃貸住宅を個人で所有していた場合、相続発生時に、複数の相続人の間で相続方法についてのもめごとが発生することがよくあります。だれか一人だけが不動産を相続するにしても、共有財産にするにしても、合意形成に時間がかかり、不動産を共有名義にすることは後々のトラブルにもつながる可能性があるからです。
一方、法人化していた場合は、株式会社の場合は株式を、その他の形式の場合は出資持ち分を生前に少しずつ相続人に移行することで、比較的スムーズに資産を移転させることが可能です。
法人の株式や出資持分を移動する場合は、法人自体の資産評価額のうち、資産移動分に応じた贈与税がかかります。しかし前述した役員報酬や給与、また退職金支払いなどの方法で法人から個人への資産移転を行っておくことで、法人の資産価値をあまり上げずに、実質的に次世代の相続人に対する資産移転を行うことができます。税理士と相談しながら、最適な方法を検討してみましょう。
相続や事業継承が発生した場合、アパートの所有者が個人だと、財産や債務をはじめ管理会社との管理契約、銀行とのローン契約、光熱費、保険契約、入居者との契約など、すべてにおいて名義変更が必要になりますが、法人の場合は変更の必要がありません。このため、相続や事業継承が発生しても、スムーズな引き継ぎを行うことができます。
アパート経営を法人化することのメリットを見てきましたが、デメリットにも目を向けておく必要があります。ご自身の状況に応じて、法人化の要否を適切に判断するようにしましょう。
会社を設立するにあたって、必ずかかる費用があります。会社形態としては、株式会社か合同会社のいずれかになると思われますが、それぞれ、設立費用は異なります。一般的に株式会社のほうが知名度が高いぶん、信用度も高いとされているかわりに、設立や運営の手間と費用は合同会社よりも多くなります。
また、個人所有のアパートから法人に切り替える場合は、家賃収入のもととなる建物を個人から法人に移転することになり、その際、不動産取得税(原則、評価額の4%)がかかります。
さらに会社を維持するためには、収益に関係なく従業員数により法人住民税の均等割分が必ず必要になります。これに加えて、経理や税務処理を適切に行うために税理士への依頼を行うことが多いため、その報酬も必要です。
これらの維持費用が、節税メリットを上回る場合は、法人化は時期尚早と言えるでしょう。
法人化によって、個人の場合は得られていた節税効果が逆に得られなくなることもあるので注意が必要です。例えば、賃貸住宅のローンがある状態で相続が発生した場合、個人の場合はローンが負の資産となり相続資産全体を減らす効果がありますが、法人の場合は、法人の資産価値がゼロになるだけで、そのような効果はありません。
また、不動産を売却することになった場合の譲渡所得に対する税率は、個人の場合は5年以上保有したケースで20%ですが、法人の場合は通常の実行税率がかかります。
正しく確定申告している場合は特にデメリットとは言えないかもしれませんが、税務調査が入る割合は、個人よりも法人のほうが多いと言われています。自分では正しい申告をしているつもりでも、税務署との見解の相違があった場合は、確認のための労力がかかります。場合によっては、弁護士費用が発生したり、追徴課税が発生してしまうことも考えられます。
【まとめ】
アパート経営を法人化するというのはどういうことか、またそのメリットやデメリットについて見てきました。ここで挙げた以外にも、個々の状況に応じて検討したほうが良いこともあり、法律や税制は、年々変わります。そのため法人化にあたっては、専門家に適宜相談しながら検討を進めることをおすすめします。
これから法人化も含めアパート経営を考えた場合、法人化の実績が豊富な大手ハウスメーカーに相談するのも賢い方法です。信頼できる司法書士や税理士の紹介や、法人化に向けた段取りについても適切なアドバイスをしてくれるでしょう。信頼できるパートナーを見つけ、法人化による効率的かつ理想的なアパート経営を通して、より魅力的な住まいの提供を目指してください。
【記事監修】 | 監修:曽根 恵子 株式会社夢相続 代表取締役 公認 不動産コンサルティングマスター相続対策専門士 不動産に関するプロフェッショナルとして、宅地建物取引士資格登録者/不動産鑑定士登録者/一級建築士登録者の国家資格登録者のみが受験し、5年以上の実務経験を必要とする国土交通大臣認定資格「公認 不動産コンサルティングマスター」の資格を持つ。 土地活用術などを駆使したさまざまな「相続プラン」を提案し、相続コーディネートをする株式会社夢相続を運営。書籍(著書・監修)75冊/累計67万部出版。テレビ・ラジオ出演、新聞・雑誌などのマスコミ取材も多数。 |
【代表的な書籍】 | 「相続になっても困らない 地主・農家さんのための“負”動産対策」 (クロスメディア・パブリッシング) |