住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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【目次】
相続税対策のひとつである生前贈与。贈与には非課税枠があり、その枠内で贈与する分に関して贈与税はかからない、という税制上の制度を活用するものです。贈与の対象となる「財産」とは、現金や預金、有価証券、ゴルフ会員権など、さまざまですが、生前贈与の中で不動産を贈与する方法は限られています。この生前贈与の制度にはいくつか種類があり、その中で不動産を贈与できるのが、暦年贈与制度と相続時精算課税制度と呼ばれるものになります。
今回は、比較的容易にできる暦年課税制度について紹介します。
贈与税の控除ができる生前贈与の制度には6つの種類があります。①暦年贈与制度、②相続時精算課税制度、③贈与税の配偶者控除、④教育資金の一括贈与、⑤結婚子育て資金の一括贈与、⑥住宅取得資金の贈与です。③~⑥はその用途が明確に決まっており、主に現金による贈与が一般的。現在、所有されている賃貸住宅のオーナーさまが不動産を贈与する際には①か②を利用することになります。
比較的容易にできると述べた理由は、毎年1月1日から12月31日までに現金や不動産の持ち分の贈与額が110万円以下であれば贈与税はかからず、税務署への申告の必要もないからです。ただし、贈与税は贈与を受ける側にかかりますので、贈与をしたい人が複数いて、それぞれから財産を受け取る時は一人で受け取る額の合計が110万円を超えれば贈与税が発生してしまいますので注意しましょう。また、相続開始から遡って7年以内に贈与者から受けた贈与は相続税に加算されるので、不動産の承継を考え、暦年贈与制度を利用する場合は、早めに始めることをおすすめします。不動産という高額な財産においては110万円という非課税枠は決して大きくありません。ですが、複数年にわたり贈与し、少しずつ贈与者の財産を減らしていくことで、相続税を抑えることが目的のひとつになります。
コツコツと贈与していくことのできる暦年贈与は、③贈与税の配偶者控除、④教育資金の一括贈与、⑤結婚子育て資金の一括贈与、⑥住宅取得資金の贈与との併用も可能です。家族の目的にあった制度があれば、暦年贈与制度と一緒に利用することで贈与者の財産を移行することができます。例えば、④では1,500万円まで贈与がかかりませんので、暦年贈与と合わせると1,610万円まで非課税です。反対に併用できないのが、②の相続時精算課税制度。2,500万円までなら贈与税を納めずに済む上、相続開始以前であればいつでも始められる制度です。相続開始となった場合には贈与した財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合わせ、そこから相続税額を計算して相続税として納税することになります。相続開始7年以上前まであれば相続財産に加算されることがない暦年贈与と併用することができないだけでなく、相続時精算課税制度を利用する届け出をした場合、暦年贈与に戻すことができないため注意が必要です。
暦年贈与の良い点としてあげられるのが、受贈者を選ぶことができ、また贈与するタイミングを贈与者自身が決められること。子や孫への承継を考えている賃貸住宅オーナーさまは多いかもしれませんが、受贈者は他人でも構いません。贈与した財産は、特例贈与財産と一般贈与財産に分かれます。親や祖父母などの直系尊属から18歳以上の子や孫に贈与したものを特例贈与財産、それ以外が一般贈与財産です。税率も特例贈与財産の方が低く設定されていますので、子や孫への承継を優遇しているともいえるでしょう。
贈与する不動産の価額は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額によって決まります。どちらも時価より低いため、時価で計算される相続時に比べ有利に不動産を贈与することが可能です。特に、今後価値が上がると予想される地域で賃貸住宅経営をされている方には、価額が低い段階で贈与できる点にメリットがあります。収益そのものを生むのはアパートの建物のため、年々建物の評価額は下がっていきますが、子や孫の収益は上がっていくと予想されます。その資金は相続時の納税にも役立つはずです。評価の上昇を考えると、アパートの贈与では土地と建物両方ではなく、建物のみのほうが贈与者、受贈者双方にプラスになる可能性が高いです。
ここでは、暦年贈与制度を利用して、現在の評価額が2,000万円の建物を1回で贈与した場合と10回で贈与した場合、そして20回で贈与した場合の計算してみます。長男に贈与するという設定で、特例贈与財産の税率で算出しました。
※参考 国税庁贈与税の計算と税率(暦年課税)早見表
<贈与税の計算式>
{建物の価額(÷回数)-基礎控除額}×税率-(贈与税の)控除額=贈与税(年間)
{2,000万円(建物の価額)-110万円(基礎控除額)}×45%(税率)-265万円(控除額)
贈与税 585万5,000円
{2,000万円÷10(回)-110万円}×10%
贈与税 9万円×10回分=(10年間で)90万円
1回あたりの贈与額は100万円となり、基礎控除額の範囲内のため、贈与税はなし
※10年もしくは20年に分ける場合、さらに暦年贈与中に建物の評価額は基本的に低下していきます
贈与税は累進課税であり、贈与額が増えるほど税率は高くなります。20年といえば木造アパートの耐用年数に近く、加えて相続開始の7年前と計算するとかなり長期間になりますが、時間をかけてコツコツ贈与することで贈与税はかなり抑えることが可能です。
暦年贈与制度の利用は、早期に始めることで相続開始時前までに財産の分散が可能になりますが、留意しておくべき点もいくつかあります
贈与契約自体を口頭で済ませることは違法ではありませんが、計画的に履行できるかについては疑問が残ります。
手間はかかりますが、毎年その都度贈与契約書を作成することで、相続人が複数いる場合でも相続発生時に確実に暦年贈与が反映された形で公平な遺産分割を行えたり、税務署からの定期贈与ではないか、などの指摘を回避しながら、確実に暦年贈与を行うことができます。
暦年贈与制度の利用は、110万円という限度額はありますが、10年、20年という単位でコツコツ財産を圧縮できる人に向いていると言えます。賃貸住宅経営をスタートさせる時点で収支だけでなく、計画性をもって臨むことが大切です。とはいえ、毎年同月同日と決めて贈与を繰り返してしまうと、税務署から定期贈与とみなされ、課税されてしまうことも。贈与金額も毎回110万円以内に収めるというわけではなく、控除枠を超えて贈与する年をつくるなどの工夫が必要となるケースもあります。
土地や建物を贈与する場合には、登録申請手続きや不動産価格計算などを行うため、登録免許税や不動産取得税などがその都度かかります。その税額は相続登記と比べて高くなりますので、予めかかる税を総合的にチェックしておくようにしましょう。不動産の価格計算は煩雑で、さらに登記にあたっては司法書士費用も発生します。不動産の暦年贈与によってかかる税理士・司法書士などの費用についても考慮することは重要です。建物のみなら、固定資産評価額だけを計算すればよいわけですが、それでも法務局へ申請するなどの作業には手間がかかります。まずは税理士などの相続のプロに相談してみることをおすすめします。
贈与税の暦年贈与は、時間をかけることで、基礎控除の枠を使って大きな財産を少ない金額で移すことができます。しかし贈与をせず、相続時に多額の納税をする人との間で税制上の不公平が生じている、そもそも贈与と相続という形で遺産承継タイミングによって別々の税制に分かれていることがわかりにくさを生んでいる、という指摘は政府の税制調査会などでたびたび指摘されてきました。2024年の法改正では、暦年贈与ができる期間を相続開始の7年前までとし、制度は継続されています。しかし、今後制度が続いていくかは不明確なままです。節税対策となる暦年贈与制度だからこそ、注視して利用する必要があります。
【まとめ】
生前贈与には、6つの制度があります。そのうち、不動産の贈与ができる制度は、暦年贈与制度と相続時精算課税制度の2つ。なかでも暦年贈与制度は、毎年1年間(1月1日~12月31日)で110万円以下の贈与であれば、贈与税がかからない制度として知られています。また、不動産の贈与には登録免許税や不動産取得税などがかかるため、相続登記より高くなることも。加えて、税制上の不公平さから廃止の議論もありますので、暦年贈与などの贈与を考えた時には税理士などのプロに一度相談してみるとよいのではないでしょうか。