住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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【目次】
賃貸住宅経営をされているオーナーさまが、相続対策をする際に活用を検討したい制度として、「遺言」と「家族信託」があります。それぞれ性質が違い、現在の資産の内訳や被相続人・相続人の事情によって有効な状況が異なりますので、性質を理解してどちらを活用するか検討しましょう。
「遺言」と「家族信託」はどちらも、相続前の元気な頃から遺産承継先をあらかじめ指定しておける手段です。アパートなどの賃貸住宅が相続の対象となった場合に、家族間での争いを未然に防ぐことができ、事業をスムーズに承継できることが大きなメリットです。
それでは、「遺言」と「家族信託」にはどんな違いがあるのでしょうか。「遺言」は、自分の死後(相続開始時)に効力を発揮し、財産を誰にどのように残したいかを伝えるための手段です。
一方、「信託」は、自分の大切な財産を信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう制度のこと。家族信託とは、財産の所有者が健在のうちに所有者に代わって家族が財産管理を行うことをいいます。
遺言と家族信託のどちらを選択するべきか迷う方もいるかもしれません。賃貸住宅経営において、遺言書を作成した方がいいケースと家族信託を活用した方がいいケースを以下にまとめましたので参考にしてください。
●賃貸住宅の相続人の指定だけできればいい
オーナーさまが死後の賃貸住宅経営まで相続人に任せたいという気持ちはなく、売却してもらって構わないと思っているなど、賃貸住宅の行き先だけ決めておければいいという場合は家族信託を選ぶ必要はなく、遺言がよいでしょう。
●賃貸住宅を相続させたい特定の相続人がいる
賃貸住宅は3人いる子どものうち次男に遺したいなど、法定相続分とは異なる条件で遺産分割をしたい場合は遺言がよいでしょう。賃貸住宅を家族信託の対象とする場合、その内容を登記する必要があるため誰でも見ることができますが、遺言は家族に知られずに相続人を指定することが可能。生前に知られると家族間のトラブルになりかねない場合も遺言が向いています。
●賃貸住宅の相続人を後から変えられるようにしたい
家族信託は賃貸住宅の所有者である本人と家族との契約であるため、勝手に契約内容を変更することはできません。遺言は被相続人が生きている間は、書き直しや撤回が自由にできるため、賃貸住宅を引き継いでもらう人を決めかねている場合は遺言がよいでしょう。
●認知症などに備えて家族が賃貸住宅の管理を行えるようにしておきたい
財産の所有者が認知症になった場合でも、家族信託により子どもや孫などが口座からお金を引き出したり、不動産を管理(または処分)することが可能になります。賃貸住宅経営による毎月の収入がストップすることもなく、子や孫はその収入を所有者の介護費用などに充てることができます。
●二次相続先まで指定したい
最初の相続で配偶者に引き継がれた財産が、配偶者の死亡で子どもへと移る相続を二次相続といいます。遺言は二次相続時の遺産承継先まで指定することはできませんが、家族信託は可能。「自分の死後は賃貸住宅を配偶者が相続し、配偶者の死後は長女が相続する」といった指定ができるようになります。
ここからは遺言について詳しく解説していきます。現在、多く用いられている遺言の形式は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類になります。それぞれの特徴は以下のとおりで、証人の有無や保管方法などに違いがあります。
遺言者が自ら書く遺言のこと。思い立ったときに自分で作成することができ、作成を見届ける証人も不要です。保管も自身で行うことになりますが、紛失や隠匿などを防ぐため、法務局が原本を保管してくれる制度を利用することもできます(手数料3900円)。内容の不備により無効になることも多いため、ルールに則って作成することが大切です。
遺言の作成などの公証業務を行う公的機関である公証役場で作成する遺言のこと。証人が2人必要、元本は公証役場に預ける、財産の金額に応じた手数料がかかるといった点が自筆証書遺言との相違点になります。公証人が作成するため、無効になりにくいというメリットがあります。
遺言書には民法で定められた必ず守るべき要件があります。その内容は以下のとおりです。
➀遺言書の全文、遺言の作成日付および遺言者氏名を必ず遺言者が自書し、押印する。
➁自書ではない財産目録が添付されている場合、全てのページに署名、押印する。
➂書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所がわかるように示した上で、訂正または追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印する。
(出典:東京法務局)
また、遺言書には「A4サイズの用紙を使用する」「規定のサイズの余白を設ける」「片面のみに記載する」といった様式上の要件もあります。せっかく作成した遺言書もこれらの要件を満たしていないと無効になる恐れがあることから、要件を確認しながら慎重に作成する必要があります。
ここまで見てきたように、遺言書には細かい要件があり、正しく作成できるか不安を抱く方も多いかもしれません。遺言の確実な実行のためには、専門家に依頼して作成してもらうというのもひとつの方法です。遺言書作成は以下のような専門家に依頼することができます。
相続登記(不動産の名義を被相続人から相続人に変更する手続き)を依頼できる専門家であることから、財産に賃貸住宅(不動産)が含まれている場合に適している。
相続トラブルの可能性がある場合の心強い依頼先。他の士業に比べ費用は高めになります。
官公署への提出書類などを作成する専門職。他の専門家と比べると費用が低め。法的なトラブルなど、裁判所が関わる手続きには関与できない点に注意です。
税金の専門家のため、遺言書作成については提携先の司法書士・行政書士に依頼する場合も少なくありません。しかし、相続税や贈与税についての相談をした場合、提携先と一体になって対応してくれる場合もあります。
士業の選択も重要ですが、その士業が相続・遺言作成業務に精通しているかどうかも依頼する前によく調べておきましょう。
ルールが複雑なことから難しい印象のある遺言書作成ですが、昨今、個人での作成をサポートするようなサービスも登場しています。その一例がAI(人工知能)を使った遺言書作成支援サービスです。また、オンライン上で財産の一覧表を作成すると、遺言書案文イメージを自動作成するサービスを展開している金融機関もあります。これらをそのまま遺言書として利用することはできませんが、専門家に相談する前の内容整理に活用することができます。
さらに政府は、自筆証書遺言のデジタル化に向けて「デジタル遺言制度」の検討を始めています。現在終活の一環として、民間企業がすでに個人情報や残された家族などへのメッセージを登録できるデジタル遺言サービスを展開していますが、法的効力はありません。国によるデジタル遺言制度が創設されると、法的な効力を持つ遺言書をオンライン上で作成し、保管することが可能に。遺言書作成の負担が軽減され、電子署名などの技術によってセキュリティ面も盤石になることが期待できます。
ここからは家族信託について詳しく解説していきます。前述のように家族信託は財産の所有者が元気なうちに所有者に代わって家族が財産管理を行うことをいいます。平均寿命が長くなり注目されるようになってきた新しい仕組みのため、どこに相談したらよいのか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、相談先には以下のような選択肢があります。
信託契約書の作成から信託登記(不動産が信託の対象になった場合に必要な手続き)を依頼できる専門家であることから、信託財産に賃貸住宅(不動産)が含まれている場合に適しています。
家族間でのトラブルが発生した際、遺産分割協議までは司法書士でも対応できますが、遺産分割協議でもまとまらなかった場合、家庭裁判所で調停・審判を行うことになります。その場合、被相続人は自身の権利を主張するために弁護士が必要になる場合があります。
提携する司法書士や弁護士とともに対応してくれることも可能。賃貸住宅(不動産)を信託財産にしたい場合に検討の余地があります。
家族信託という名前のついた営利目的の商品になります。銀行にも同様の商品がありますが、金銭のみで賃貸住宅(不動産)には対応できません。
家族信託のニーズの広がりにより専門の会社も登場しています。
家族信託の契約書を作成できる士業(弁護士・司法書士・行政書士)のうち、一般社団法人家族信託普及協会に認定されると「家族信託専門士」を名乗ることができます。士業への依頼を検討している場合、家族信託専門士であれば専門的な知識を有しているという目印になるでしょう。
同じく一般社団法人家族信託普及協会が認定する、「家族信託コーディネーター」は、各専門家と家族信託の活用を検討されている方々の橋渡し役です。専門家よりも気軽に相談できる存在といえるので、検討段階での活用が考えられます。
長寿社会における心強い財産管理方法である家族信託ですが、デメリットといえる部分もあります。事前に以下のような点に注意を払うことが大切です。
●受託者の負担を減らす
家族信託は「委託者」(財産を信託する人)、「受託者」(信託財産の管理や運用をする人)、「受益者」(信託財産の利益を受け取る人。委託者と同一の場合も)を定める必要がありますが、受託者の負担が大きいため、誰もやりたがらない恐れがあります。受託内容を最小限にしたり受託者に報酬を設けるなど、できるだけ受託者の負担を軽減して引き受けやすくすることが大切です。
●トラブル予防のため説明は丁寧に
家族信託は委託者と受託者との契約になるため、相続人全員の了解がなくても信託財産の管理方法を決められます。家族(相続人)の中に不公平感を感じる人もいるかもしれないため、関係者の了解をとってから進めるのが得策です。手続きを依頼する専門家から説明してもらうことも有効でしょう。
●節税対策としては考えない
家族信託は高齢の両親に変わり子どもなどが財産を運用できる契約であり、財産の評価額を下げるといった節税効果はありません。相続が発生したときも、家族信託を契約していない場合と同額の相続税の納付が必要です。
専門の会社が登場するなど、ニーズの広がりに合わせてサービスが充実してきている家族信託。初回の相談が無料でオンラインでの相談も可能な会社もあり、相談しやすい環境が整えられつつあります。スマホのアプリで信託内容を共有できるなど、IT化が進んだサービスがあれば、離れて暮らすきょうだいで情報共有がしやすいでしょう。実績や費用などを事前に確認し、信頼できる専門家や会社に依頼することが大切です。
【まとめ】
遺言と家族信託は、家族間トラブルを未然に防ぎ、相続や賃貸住宅経営の事業継承をスムーズに行うための有効な手段です。長寿社会となった今、相談先やサービスの選択肢も増えています。賃貸住宅経営を行っている方は特に、自身のため、子や孫のために、一度検討してみてはいかがでしょうか?