住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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地震や台風、豪雨など、わが国では大規模な自然災害が相次いでいます。
このため政府としてもこれらの災害に備え、特に密集地域における住宅の耐震化や防火対策を推進しており、
私の事務所のある大阪市などでも建物の建て替えに対する一定の補助金交付を制度化しています。
これを受けて、老朽賃貸住宅の建て替えに伴う立ち退きの案件も増えています。
今回はオーナーさまが最も頭を悩ませる立ち退きのポイントについて、詳しくご紹介します。
賃貸住宅の立ち退き問題で大きく立ちふさがるのが、借地借家法28条の「正当事由」です。同条によれば、家主が借家人に対して明け渡しを求める正当な事由があるかどうかは、次の5点を総合的に判断することになります。
建物を貸すことによって収益を上げることも、家主の自己使用に含まれます。
借家人が家賃の滞納や迷惑行為などの契約違反行為をしていればプラスの正当事由となり、家主が修繕義務を怠っていればマイナスの正当事由となります。
借家人が居住用に借りたのに、実際には居住しておらず倉庫代わりに使用している、あるいは目的外の使用をしているのであれば、家主にとってプラスの正当事由となります。
建物の老朽化がどの程度進行し、危険な状況になっているかが問題となります。この判断をするに際して一つの目安となるのが、その建物の建築確認の時期が1981年(昭和56年)6月より前かどうかです。1981年に建築基準法が改正され、いわゆる新耐震基準が定められました。それより前の建物は旧耐震基準によっているので、一般的に新耐震基準をクリアしておらず、大きな地震が起きると倒壊する危険性があると考えられているのです。
国土交通省告示184号(2006年1月25日)によれば、建物の耐震性能を表すIs値が0.6未満であれば倒壊の危険性があり、0.3未満であれば倒壊の危険性が高いとされています。
そこで老朽化による明け渡しを求める場合は、耐震診断の実施をお勧めします。耐震診断についても補助金を認めている市町村があるので、所在地の役所に問い合わせてみてはいかがでしょう。
以上の①から④の各事情から正当事由についてある程度備わっていると認められても、最後の決め手は立退料の金額です。立退料については、「借家権価格」と同じと思い込んでいる方が多いのですが、必ずしもそうではありません。
「借家権価格」については、不動産鑑定士が依拠する鑑定評価基準に詳細な定めがありますが、一般的には、相続税の路線価を0.8で割ったのを時価と仮定し、これに対して借地権割合と借家権割合を掛けます。 ※【事例A】参照
これに対して、公共事業の取得に伴う損失補償基準(いわゆる「用対連基準」)などを参考にして、実際に「移転に要する費用」から算定する考え方があります。居住用の場合の移転に要する費用には、① 礼金・敷金等の一時金 ② 差額家賃 ③ 移転雑費 の3つがあげられます。※【事例B】参照
事例のとおり、借家権価格と移転に要する費用とでは数字が大きく異なりますが、地価の低い地域では借家権価格の方が低い場合もあります。裁判例を見るとどちらの考え方が優勢とも限りません。一つの目安として参考にしてください。
なお、営業用の店舗の場合は営業補償を別途考える必要があり、立退料がより高額化する現実があります。
弁護士 宮崎 裕二 みやざき ゆうじ
1979年東京大学法学部卒。同年司法試験に合格し、1982年弁護士登録。1986年に宮崎法律事務所開設。2008年度に大阪弁護士会副会長、2009年から現在に至るまで大阪地方裁判所調停委員を務める。専門は、不動産・事業再生・相続・企業法務。著書に『わかりやすい借地借家法のポイント』(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、『借家の立退きQ&A 74』(住宅新報社)、共著に『不動産取引における心理的瑕疵の裁判例と評価』『土壌汚染をめぐる重要裁判例と実務対策』(いずれもプログレス)等多数。