住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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2025年(令和7年)には65歳以上の高齢者が人口の3割を占めると推計され※、団塊の世代がすべて75歳以上となります。
それに伴って、高齢者が保有する資産をいかに次世代に継承していくかが大きな課題となっています。
2015年(平成27年)に施行された相続税改正により、相続税の課税対象となる方が大幅に増加し、また相続人が遺産をめぐって争う「争族」も増加傾向が見られます。ご自身の意志を明確に伝える遺言書を作成することは、資産を賢く円満にご家族に継承するための重要な第一歩です。
※国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年 推計):出生中位(死亡中位)推計」
遺言書を作成しないで相続を迎えた場合は、残された相続人同士で遺産分割の話し合いをすることになります(遺産分割協議)。それですんなり話がまとまれば問題ないのですが、相続人のうち1人でも反対すると遺産分割協議による相続は行えません。決裂した場合は、下表のように民法で定められた相続人が定められた取り分で相続する法定相続となります。
不動産を法定相続分通りに相続する場合は、相続人全員の共有名義で相続登記をすることになります。その結果、①その不動産を売却したり担保として設定する場合には、共有名義となっている相続人全員の合意が必要となる ②共有者の誰かにさらに相続が発生すると、権利関係が複雑になる ③共有者の誰かが自分の持分を第三者に譲渡するなどの可能性がある 等のデメリットがあります。したがって、不動産を所有されている方は遺言書を残しておかれることをおすすめします。
法定相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子 | 配偶者:1/2 子:1/2 |
配偶者と被相続人の父母 | 配偶者:2/3 父母:1/3 |
配偶者と被相続人の兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4 |
子のみ | 子:1 |
※子・父母・兄弟姉妹が複数人の場合は、法定相続分をその人数で分割します。
例えば、子のいない夫婦の一方が亡くなった場合は、その配偶者だけでなく亡くなった人の兄弟姉妹も法定相続人となります。兄弟姉妹が事実上放棄してくれて、遺産分割に応じてくれればよいのですが、そうでない場合、配偶者は亡くなった人の兄弟姉妹に上表の割合で遺産を分けなければなりません。亡くなった人が親の財産の大半を相続したような場合はともかく、夫婦で築いてきた財産を兄弟姉妹に分けるために配偶者が住んでいる家を売らなくてはならないというような事態を避けるには、遺言書を残しておくべきでしょう。
【図A】は、推定相続人(遺言書を作成しようとしているAさんが亡くなった時に相続人となる人)の中に、認知症の配偶者がいるケースです。認知症の人は遺産分割協議ができないので話し合いで解決することができず、配偶者の法定相続分については事実上凍結状態となってしまいます。配偶者に成年後見人を選任して遺産分割をする方法もありますが、遺言で対策をしておく方が簡便です。
親が同居する子にその家を譲りたいと思い、他の子にも説明して了解してもらったと安心していても、遺言書がないと後になってトラブルになることがあります。【図B】では、Bさんが亡くなった後に「その家を同居する長男が取得するのは了解したが、その代わりの金銭を要求しないとは言っていない」と、長女や次男が長男に金銭補償を要求するようなことがしばしば起きます。例えばその不動産の評価額が3,000万円とすると、法定相続分の各1,000万円ずつを請求するわけです。
親と同居していた長男としては、寄与分を主張して対抗することができると考えるかもしれませんが、裁判所は親族としての通常の扶養を寄与分として認めることはありません。認めてもらうためには特別の寄与が必要であり、仮に認められてもその金額は本人の思いとかけ離れた低い金額であることが多いので、あまり期待できません。
遺言書を有効に作成するには、作成時点において遺言能力を有していることが必要です。遺言能力とは、自らが行う遺言の内容を理解し、判断する能力のことです。医者に認知症と診断されている場合などには、遺言書が無効になる可能性があります。今は元気だからといって先延ばしにしていると、事故や病気の後遺症や認知能力の衰えによって、遺言書を作成することができなくなってしまうことがあるのでご注意ください。
また、遺言書はただ残せばよいというものではなく、中身をしっかり吟味する必要があります。ご自身の家庭状況に即した内容になっているか、法的に問題にならないかを専門家と相談することが望ましいでしょう。
弁護士 宮崎 裕二 みやざき ゆうじ
1979年東京大学法学部卒。同年司法試験に合格し、1982年弁護士登録。1986年に宮崎法律事務所開設。2008年度に大阪弁護士会副会長、2009年から現在に至るまで大阪地方裁判所調停委員を務める。専門は、不動産・事業再生・相続・企業法務。著書に『わかりやすい借地借家法のポイント』(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、『借家の立退きQ&A 74』(住宅新報社)、共著に『不動産取引における心理的瑕疵の裁判例と評価』『土壌汚染をめぐる重要裁判例と実務対策』(いずれもプログレス)等多数。