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法律(2022年5月号)告知義務の基準について
〜「人の死の告知に関する
ガイドライン」〜

  • 遺産相続

弁護士 桝井 眞二

このコラムの内容は、2022年(令和4年)5月現在のものです。

不動産の売買や賃貸借の取引の際、対象不動産で過去に生じた人の死に関する情報を、
取引希望者にはどこまで、いつまで、伝えればよいのか?
これまでその判断基準がなく、円滑な流通や安心できる取引が阻害されてきたとの指摘があります。
こうした声を踏まえ昨年秋、国土交通省が
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました。
その内容とポイントを、弁護士の桝井先生に解説いただきます。

ガイドラインの策定・公表

2021年10月、国土交通省が居住用不動産に関する「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました。不動産で過去に発生した人の死を、売主・貸主・仲介業者が、買主・借主に告知すべきなのか否か、どの範囲まで告知すべきかは、常に現場を悩ませてきた、古くて新しい課題と言えます。
実は私も数十年前に、凄惨な殺人事件が起こった建物の跡地をめぐる売買で、買主側の代理人となって訴訟を提起した経験があります。同事件で裁判所は、その土地が周辺住⺠から祟りのある土地と言い伝えられていたこと等に基づき、心理的瑕疵があると認定。売主と仲介業者に対して告知義務違反に基づく損害賠償を命じました。
これは極端な例ではありますが、司法の事後的な判断で不動産取引の効力が左右されるということでは、安心して不動産取引を行うことはできません。ガイドラインは絶対の基準ではないとはいえ、一定のルールが示されることにより、トラブルの未然防止が期待できるため、ガイドラインの公表は歓迎すべきことと言えるでしょう。

告知をしなくても
よいケースとは

人の死が取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、告知が必要なのは大原則です。そのうえで、ガイドラインでは以下の3つのケースでは告知しなくともよい、としています。

  1. 老衰・病死などの自然死
  2. 転倒・転落死や入浴中の溺死、食事中の誤嚥・窒息といった、日常生活の中での不慮の事故死
  3. 隣接の住戸や、集合住宅の通常使用しない共用部分で発生した死亡(自殺や殺人も含む)

ただし、①や②の自然死や不慮の事故死であっても、特殊清掃等が行われた場合や、日常的に使用する共用部で発生した死亡事案については、発生(または死亡の発覚)後、約3年間は告知義務があります

※特殊清掃等とは…
死後の発見が遅れて住戸内の床や壁に大きなダメージを及ぼした後の残置物撤去や専用の機器を使った消臭・除菌・害虫駆除等の清掃作業。原状回復のために大規模なリフォーム工事が必要になることもあります。

前述の①②をまとめて「自然死等」と言い、③の自殺や殺人など事件性のある死因とは区別しています。住戸内で起きた通常の自然死等については、特殊清掃にまで至らなければ告知不要=事故物件扱いとはしない、という判断が示されたことになります。また集合住宅で、日常的に使用される共用部といえば、共用のエントランス、廊下・階段、エレベーター等が該当すると考えられます。占有的に使用が認められているバルコニーも集合住宅では共用部にあたります。日常生活でよく使うこれらの部分で人の死に関連する事件が発生した場合も、3年経過後は告知の義務がなくなります。

ご注意ただしこれは賃貸借の場合のみであり、売買取引については概ね3年を経過した以降も告知すべきことを前提に、経過期間の基準が書かれていないことには注意が必要です。

ご注意ただしこれは賃貸借の場合のみであり、売買取引については概ね3年を経過した以降も告知すべきことを前提に、経過期間の基準が書かれていないことには注意が必要です。

告知を必要とする場合と
その内容は

他方、ガイドラインでは取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、告知が必要としています。ニュースで大々的に報じられた凄惨な殺人事件などは「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い場合」「買主・借主において把握しておくべき特段の事情」に該当すると考えられます。ただし具体的な基準が示されているとは言えないため、実務上では個別の事案ごとに検討せざるを得ないでしょう。さらに買主・借主から過去に起きた人の死について問われた場合にも、調査の内容を正確に答える必要があります。
そして告知すべき内容を、事案の発生時期(特殊清掃等が行なわれた場合は発覚時期)、場所、死因及び特殊清掃等が行なわれた場合はその事実、とした上で、亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮することとしています。個人の特定につながる氏名、年齢、住所、家族構成といった個人情報はもちろん、こと細かに発見状況等を告げる必要はありません。

ガイドライン公表が
及ぼす影響

ガイドラインの公表によって、トラブルの未然防止の他、これまで敬遠されてきた単身高齢者への賃貸入居が促進されることも期待されています。
ただ現時点では、内容がまだ十分とは言えません。冒頭に紹介したような、人の死が生じた建物が取り壊された土地取引の取扱いを含め、今後の裁判例などの蓄積を待って見直しがされることとなっています。このように、全ての事案を網羅したものではありませんが、ガイドラインによって基本的な考え方が示されたことは、不動産取引実務に与える影響が大きいことは間違いないでしょう。

オーナーさまへのご留意事項

ガイドラインは宅建業者が宅建業法上負うべき義務の解釈についてとりまとめたもので、管理を任せているオーナーさまにとっては関係ないと思われるかもしれません。しかし、ガイドラインの運用に準じて宅建業者から告知書の記載を求められることもあるでしょう。トラブルの未然防止のため、告知不要と思われる自然死であったとしても、死因が疑われる事案の存在があれば正確に(不明の場合は不明と)記載することが必要です。借主から事案の有無について問われた場合には、宅建業者は調査を通じて判明したことを告げる必要があり、もし、事案の存在について故意に告知しなかった場合には、オーナーさまも民事上の責任を問われる可能性がありますので、ご注意ください。

今回の特集では、内容をわかりやすくお伝えすることを重視して、ガイドラインの文章そのままではなく簡略的な表現を用いた部分があります。
ガイドライン本文やガイドラインの概要を合わせて参照されることをおすすめいたします。

宅地建物取引業者による
人の死の告知に関するガイドライン

ガイドラインの概要はこちら

国土交通省のホームページからも
ダウンロードすることができます。

弁護士 桝井 眞二 ますい しんじ

弁護士 桝井 眞二ますい しんじ

大学4年在学中に司法試験合格。
1982年(昭和57年)、東京弁護士会に弁護士登録。現在、新麹町法律事務所(弁護士27名)所長(共同経営者)。
不動産関係、相続、一般民事、大型刑事事件などを手掛ける。

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