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市場動向(2024年4月号)事前防災のすすめ
老朽賃貸住宅を
「地震に耐える家」に建て替える

  • 賃貸住宅経営

小滝 晃

このコラムの内容は、2024年(令和6年)4月現在のものです。

大都市等の密集市街地では、巨大地震に備えるため、老朽化した賃貸住宅などの建築物を
耐震性・耐火性に優れたものに建て替えることが重要な課題となっています。
過去の地震による家屋倒壊や延焼火災を見ても、その重要性は明らかでしょう。
しかし、所有者が高齢であるため、後継世代との調整や資金調達が難しく、
そうした建物の建て替えが進まない例も多くあげられています。
本稿では、こうした賃貸住宅を「地震に耐える家」に建て替えることが、
災害に強いまちづくりのためにはもちろん、オーナーさまのご家族の幸せのためにも、
大変有力な選択肢であるというお話をしたいと思います。

1自然災害により
建物が被災した場合は…

住宅の賃貸借契約とは、賃貸人が賃借人に「住める状態の部屋」を提供し、その対価として賃借人が家賃を支払う契約のことです(民法第601条)。自然災害によって建物が被災した場合でも、賃貸借契約が存続する限り、賃貸人は「住める状態の部屋」を提供する義務があります。

1建物が一部損壊した場合

このため、災害によって建物が一部損壊した場合は、賃貸人は、自らの負担で修繕しなければなりません(民法第606条)。また、被災の原因と住めない状態になった度合に応じて、家賃の減額請求に応じなければなりません(民法第611条)。

一方、入居者の被害(家財の被害、怪我・死亡などの人的被害、避難中のホテル代など)については、原則としてオーナーさまの責任を超えるものとして、基本的には入居者負担となります。ただし、建物の「設置」について瑕疵(欠陥)があり、建物が「通常備えておくべき安全性」を欠き、被害が生じた場合には、損害賠償を請求される可能性があります。建物の「設置」に瑕疵があるかどうかは、主に建築当時の耐震基準等の建築基準を満たしていたかどうかで判断されるので、建築当時の耐震基準を満たしていない建物は、オーナーさまが非常に大きなリスクを抱えていると言わざるを得ません。なお、建物が大破し、修繕費用が経済的にみて不当といえるレベルに達する場合は、賃貸人は、契約解除の正当事由(借地借家法第28条)を主張することで賃貸借契約を解消できる可能性があります。

2建物が全壊・滅失した場合

賃貸契約の目的物である建物が全壊・滅失(原型をとどめない状態)となった場合は、賃貸借契約そのものが履行不能により消滅し、賃貸人及び賃借人の権利も義務も消滅します。この結果、オーナーさまは修繕義務を免れることになりますが、解体や再建築という次の問題に直面します。

3建物の修繕・再建に対する支援措置

自然災害によって住居に多大な被害を受けた場合は、被災者生活再建支援金制度(例:全壊の場合で1世帯当たり300万円)を利用することが可能です(被災者生活再建支援法第3条)。この他、地方公共団体によっては独自の支援制度が用意されている場合もあります。また、損害保険(火災保険・地震保険)によって保障される場合もありますが、個々の保険によってカバーする範囲や程度が異なります。損害保険料率が自由化された1998年以前は、建物時価を保障限度額とする「時価方式」が主流だった関係で、築年数が経過した賃貸住宅は支給金額が少ない「時価方式」になっている場合が多いことに注意が必要です(「再調達価格方式」での契約であれば、このような問題はありません)。

2地震が来る前に
老朽賃貸住宅を
「地震に耐える家」に
建て替える

老朽化した賃貸住宅については、地震で被災する前に、思い切って、巨大地震に耐える耐震性・耐火性を持つ建物に建て替えるのも有力な選択肢です。これは、いわゆる「事前防災」の考え方に立った取り組みといえます。

1事前防災の大きなメリット

ひとたび災害が起こり大きく被災すると、再建築費用だけでなく、瓦礫の処分や仮住まいなどの大きな復旧費用がかかります。古い賃貸住宅は、損害保険が時価方式の契約になっていたり、それを見直すと保険料が高額になるなど、保険による対策にも限界があります。そして何よりも、家を失うと、それまでの生活や仕事が継続できなくなり、人生の基盤が動揺する深刻な事態に陥りかねません。しかし、地震が来る前に、地震に耐える頑健な建物に建て替えた場合は、状況は大きく異なってきます。そのような建物は、壁面クロスの亀裂などの軽微な補修で済み、住宅再建の費用がかかりません。不自由な避難所生活をせずに、自宅での生活と仕事が続けられた(在宅避難)例も多く見られます。

2高齢の所有者にとっても、建て替えは有力な選択肢

スケルトン&インフィル設計(長持ちする躯体+変更しやすい内部)の建物であれば、設備や間取りを変えながら次の世代以降も長く利用していくことができますので、建て替えた建物は無駄遣いではなく、世代を超えてご家族の財産になります。そして、建て替えは相続税の節税対策にもなります。また、高齢者の方であっても、優れた立地や収益性をもつ物件であれば、建て替え資金の調達をしっかりと支援していく仕組みも設けられています

※(一財)首都圏不燃建築公社の賃貸経営支援事業 首都圏不燃建築公社が、住宅金融支援機構や民間信金のアパートローンの保証機関となって、首都圏の賃貸住宅の建設を支援する事業。デフォルト時の求償範囲を担保物件(土地・建物)のみに限定する責任財産限定保証方式(いわゆるノンリコース方式)も利用可能です(問合わせ:03-6809-6168)。

東日本大震災以来、日本列島には、大きな変形が蓄積されており、地震の活動期に突入したのではないかとの指摘もみられます。
首都直下地震や南海トラフ地震が発生する確率は、今後30年間で7割以上といわれています。
災害が増えている近年だからこそ、リスクを見据えた早めの対応が重要になってきているといえましょう。
どんな建物でも、いずれは建て替える時期がきます。
老朽賃貸住宅のオーナーさまには、巨大地震が来る前に、地震に耐える建物に建て替えるという選択肢を視野に入れ、建築した住宅会社やリフォーム会社へご相談いただくことをおすすめしたいと思います。

今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率
小滝 晃 こたき あきら

小滝 晃こたき あきら

国士舘大学防災・救急救助総合研究所客員教授、(一財)首都圏不燃建築公社専務理事、博士(政策研究)
1982年建設省入省。2011年3月の東日本大震災時には、官邸で緊急災害対策本部の設置・運営に従事。
その後、巨大災害政策研究に取り組む。退官後、パナソニック ホームズ(株)特別顧問を経て、(一財)首都圏不燃建築公社で、東京市街地の木密対策等に関する取組や研究・提言を行っている。
主な著書『次の関東大震災までに何をなすべきか−3.11からの教訓』(2022年中央公論新社)。

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