住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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2022年4月19日、注目の相続税訴訟に最高裁判決が下されました。
路線価に基づく財産評価が実勢価格と大きな隔たりがある場合、相続税額が不当に低く
なりすぎるのは公平ではないとして、鑑定評価額による課税を「適法」であると認めたものです。
この判決の意味と背景、そして今後の影響について解説します。
ことの発端は、本来は億単位の相続税がかかる資産家の相続に際して、“不動産の購入”により相続税がゼロ円で申告されたことでした。路線価に基づく不動産の相続税評価が、実勢価格と比べて低すぎるとして国税局が約2.4億円を追徴課税。それを不服とした相続人側が訴訟を起こしましたが、一審・二審とも敗訴、このほど最高裁でも相続人の上告を棄却して結審しました。
2008/8.19 | 二男の子と養子縁組 |
---|---|
2009/1.30 | 甲不動産(44室のマンション他)購入 8億3,700万円(銀行借入6億3,000万円) |
2009/12.25 | 乙不動産(39室のマンション)購入 5億5,000万円(銀行借入3億7,800万円/妻から借入4,700万円) |
2012/6.17 | 94歳で死亡/相続発生 |
2013/3.7 | 乙不動産を売却(5億1,500万円) |
2013/3.11 | 相続税を0円で申告 |
2015/4.22 | 国税庁が鑑定評価実施 |
2016/4.27 | 更正処分等(追徴課税2億4,050万円) |
2016/7.27 | 国税不服審判所へ審査請求/棄却の裁決 |
2017〜2020 | 訴訟提起 一審・二審敗訴 |
2022/4.19 | 最高裁で棄却 |
※令和元年8月27日判決言渡 平成29年(行ウ)第539号 相続税更正処分等取消請求事件判決文より抜粋作成
争点は、通常用いられる路線価ではなく、国税局が鑑定評価額(実勢価格)を基に相続税の課税額を決めたことの是非、そして評価基準を変えたことに合理的な理由が認められるかどうか、という点でした。最高裁はどのように判断したのでしょうか。
実際、通達評価(路線価による評価)額と鑑定評価額との間には9億3,930万円もの大きな開きがありました。判決では、鑑定評価額は客観的な交換価値としての時価であると認めたうえで、画一的な評価を当てはめると租税負担に不公平が生じてしまう場合には、評価基準を変えるケースがあったとしても違法ではない、としました。ただし評価額に開きがあるだけでは問題となりません。
購入価格① | 鑑定評価額② | 相続税評価額③ | 差額②−③ | |
---|---|---|---|---|
甲不動産 | 8億3,700万円 | 7億5,400万円 | 2億0,004万円 | 5億5,396万円 |
乙不動産 | 5億5,000万円 | 5億1,900万円 | 1億3,366万円 | 3億8,540万円 |
合計 | 13億8,700万円 | 12億7,300万円 | 3億3,370万円 | 9億3,930万円 |
〈甲不動産〉相続まで3年5ヶ月 保有継続
〈乙不動産〉相続まで2年6ヶ月 売却(5億1,500万円)
※令和元年8月27日判決言渡 平成29年(行ウ)第539号 相続税更正処分等取消請求事件判決文より明細記載
重要なのは借入による不動産投資を、「租税負担の軽減を意図した行為」と判定されたことです。金融機関の貸出稟議書に借入の目的が【相続税対策のため】と記載されていたことも裏付けとなりました。さらに、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、またはすることのできない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべき」とされました。このように節税の意図を持って、投資用の不動産を購入したことと、何より購入のための巨額の借入金によって債務を膨らませて、他の財産の価値を相殺させたことを問題視されました。
この判決を受けて、今後はどのような点に注意が必要となるでしょうか。まず、鑑定評価額を時価と認めた判決が出た点です。売却しないで不動産を持ち続けても、路線価による相続税評価額が認められないケースがあるということです。また、不動産の事業実態や採算性があっても、それは考慮されません。
不動産の取得から相続発生までの期間についても、いわゆる「3年しばり(※1)」の規定がありますが、やはり「3年」程度の期間内の相続開始では認められないと考えるべきでしょう。近い将来発生する相続での税負担を減らす行為、と見なされるリスクがあります。今回の判例では指摘はありませんでしたが、高齢であることも問題になりがちですので注意が必要です。
資金面では、借入金により相続財産が軽減された行為を「看過し難い不均衡を生じさせた」としており、数億円の軽減をもたらす借入による相続対策は難しいと考えられます。融資ではなく自己資金による不動産投資であれば問題になりません。他の不動産を売却した現金預金で取得した不動産については、通達評価を認めた別の判例もあります。
マンションの購入ではない、賃貸用のマンション建築での事例を課税当局が否認した案件は紹介されていません。地主さんが自分の土地にマンションを建築するのは、儲かるからなのであって、経済合理性から考えて、マンションの賃貸事業は当然の行為だからだと思います。
億を超える相続税を帳消しにするような、極端な債務を組み合わせた相続税対策にはNOが示されましたが、土地所有者の賃貸事業経営が、相続税対策に有効である点は変わりません。次代への資産の有意義な継承を、真摯に考えていただければ幸いです。
※1.法人で不動産を取得の場合
税理士 深代 勝美ふかしろ かつみ
税理士法人 深代会計事務所 理事長
昭和26年生まれ、群馬県沼田市出身。
世界有数の会計事務所デロイト・ハスキンズ会計事務所勤務を経て、昭和60年深代会計事務所を設立。
資産税分野に豊富な実績を持ち、執筆活動、セミナー開催等、幅広く活躍中。
東京都でトップ10に入る税理士法人(令和3年11月時点 売上ランキング9位)。