住まいづくり・住まい探しの情報ガイド
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第2回『修繕積立金が少ない方が、家計に優しいという訳ではない』
プリンシプル住まい総研 所長:上野 典行 氏
講師
プリンシプル住まい総研所長 : 上野 典行 氏
新築マンションでも中古マンションでも、分譲マンション購入時には「月々の修繕積立金は少ない方が、家計に優しい」と一般的には思われがちです。ところが、修繕積立金が少ないという事は、将来の大規模修繕の原資(費用)が限られてしまうという事になります。10年・20年が経ち、共用部に不具合があったとしても、直すに直せないという事にも成りかねません。エントランス部分やエレベーターの劣化が激しくなり、売りに出しても安く見積もられてしまい、賃貸に出しても賃料が安く抑えられて、賃料収入が減ってしまいます。
そこで今回は、修繕積立金をどう考えるべきか?について、論じていきましょう。
「頭金は今ある手持ち資金から」と考えつつ、とは言え「少しでも良い立地・広さ」を求めて背伸びをすると、月々のローン返済金額が増えて、支払い可能金額に対して目一杯となり、別途必要となる共益費・管理費・修繕積立金は「出来るだけ安い方が良い」と思われがちです。家計を預かる主婦にしてみれば、月々の支払いを安くしようと、お得な物件として、「共益費・管理費・修繕積立金が少ない物件」を、ついつい選びたくなるものです。
こうした探し方は、賃貸物件においては、実はとても有効です。「家賃+共益費」を毎月支払う訳ですから、同じ広さ・スペック・設備ならば、支払い合計金額が少ない方がオトクと言えるのです。
ところが、分譲マンション物件を買う時には、この考え方は、逆にとても危険です。なぜなら、分譲マンション物件の建物はやがて劣化します。そしていずれは、傷んだ箇所を直さなければならない時が来るのです。賃貸住宅であれば「古くなったら移り住もう」と割り切って考えれば良いかも知れませんが、購入した分譲マンション物件では、古くなったら移り住もうという判断にはならず、「直して使い続けたい」と考える事になります。その時、建物を直す予算が、修繕積立金なのです。
国土交通省『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』によると、マンションは、12年に一度、大規模修繕工事を行い、建物をメンテナンスする様に求められています。その中で、「マンションの良好な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、計画的な修繕工事の実施が不可欠です」と書かれ、「修繕積立金の額の目安」について算出方法も書かれています。
大規模修繕する際、特に問題となるのは、防水シートとタイルです。日本は四季の変化が激しく、屋根の防水シートは直射日光・雨風・台風によって劣化します。これらシートの耐久年数は12年前後のモノが多く、長期間放置すると破けたりします。すると、破けた所から雨水が浸入するのです。コンクリートは内部が強アルカリ性となっており、中の鉄筋が皮膜に覆われて錆びない状態になっていますが、ひとたび水が浸入すると、アルカリ度が弱まる等によって鉄筋の皮膜が破壊されて錆び易くなり、やがて錆びた鉄筋が膨張します。するとコンクリートは内部からひび割れて破壊されてしまい、耐震性能等が著しく落ちてしまうのです。
また外壁のタイルも直射日光・雨風を毎日浴びます。結果的に、タイルが劣化して落下すると、下を歩いている人に対して、危険が生じてしまいます。こうしたタイルを検査したり、補修を行う際には、作業する人が修繕部分に手が届く様に、足場を組む必要があります。この足場だけで、なんと数億円も掛かってしまう事があるのです。そうなると、せっかく足場を組むのですから、同時に手すりも直したい、塗装も塗り直したい、といった事になります。この時、住民である区分所有者が出し合った修繕積立金が使われるのです。
実際、既に建築されているマンション物件では、この修繕積立金が底を尽いてしまい、エレベーターが直せない、立体駐車場が直せない、といった事例も出ています。こうした共用財産は、区分所有者みんなのモノであるのと同時に、売買する時や賃貸する時に評価される「資産」の一つとなるのです。この様に、後々の事を考えると、「修繕積立金が少ない」という分譲マンション物件は、一見、月々の家計には優しそうですが、結局はお金が足りなくなって、その時に別途支払う事になるか、修繕を諦めて物件価値を悪化させてしまう可能性があるのです。
新築マンション物件の購入時には、予定されている大規模修繕計画を見る事も可能です。大切な資産をどのようにして維持するのか?こうした視点も持って、新築・中古マンション物件選びを進めて行きましょう。
リクルートに入社後、採用の編集企画室、続いて新領域推進室にて新規事業に携わった後に住宅領域に異動。
「住宅情報タウンズ編集長」「住宅情報マンションズ編集長」「SUUMO編集長」を経て独立。
「プリンシプル住まい総研」設立。日本賃貸住宅管理協会 研修副委員長、全国賃貸住宅新聞等、連載中。
※プロフィールは、取材当時のものです。